ヨウ素過剰症について
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ヨウ素過剰症による甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)は甲状腺内組織の活動が異常に活発になることにより、トリヨードサイロニン(T3)又はサイロキシン(T4)、或いは両方の甲状腺ホルモンの分泌量(活性)が過剰になる疾患である。甲状腺ホルモンは細胞レベルで非常に大切なホルモンであり、体の殆どの組織に影響を及ぼす。代謝内分泌疾患の一つ。甲状腺ホルモンは体にエネルギーの利用を促すホルモンであり、これが過剰になる事で全身の働きが過剰になる為、アドレナリンが過剰に出た時と似たような症状が出る。
甲状腺機能亢進症の原因
甲状腺機能亢進症の原因として多いのはバセドウ病である。これは甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体によっておこる自己免疫疾患である。他の原因として甲状腺炎、プランマー病、甲状腺刺激ホルモンもしくは甲状腺刺激ホルモン様物質産生腫瘍、甲状腺ホルモンの過剰摂取などがある。厳密に言うと甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)と甲状腺中毒症(thyrotoxicosis)は同義ではないので注意。
甲状腺機能亢進症の症状
主に心臓の活動が上がって頻脈になる、エネルギー消費の亢進により多食や体重減少、多飲多尿、発汗、高血糖などやめまい、抜け毛、鬱、不安感、イライラ、震え、暑さに耐えられない、などの症状がある。そのほかの症状として、動悸、不整脈(心房細動)、息切れ、性欲不振、吐き気、嘔吐、下痢を伴うこともある。治療をせずに長期間放置していると骨粗鬆症の原因となることもある。また、高齢者の場合はこういった症状が見られないこともある。低カリウム血症を来たした結果、周期性四肢麻痺を来たすこともある。爪甲剥離症を認めることがある。神経性の症状としては震え、舞踏運動、筋疾患などがあり、中には震顫麻痺を起こす人(特に東洋人に多い)もいる。また、甲状腺機能障害は重症筋無力症とも関連があるとされている。甲状腺機能障害の中でもこの症状の場合は自己免疫によるものとされ、重症筋無力症の患者の5%が甲状腺亢進症を持っているとも言われる。甲状腺の治療の後も重症筋無力症の症状は殆どの場合改善されず、この二つの疾患がどう関係しているのかははっきりと分かっていない。そのほかの神経性の症状で甲状腺中毒症との関連が疑われている疾患に偽脳腫瘍、筋萎縮性側索硬化症、ギラン・バレー症候群に似た症状がある。
どのタイプの甲状腺亢進症でも視覚上の症状を伴うこともあり、瞼の萎縮による「凝視」や瞼の筋力が弱まったり運動が遅れたりすることもある。甲状腺亢進症の場合の「凝視」(ダルリンプル症候)は瞼が通常よりも上方向に萎縮する為に起こる(通常の位置は上部角膜輪郭で白目と虹彩の境目辺りにある)。瞼の筋力が弱まると物が二重に見えるなどする。瞼の運動が遅れる症状(グレーフェ症候)では目が下方向に物を追った際に瞼が虹彩と共に下方向に向かず、逆に上目で物を見ようとすると一時的に瞼の筋肉の萎縮が起こる。このような症状は甲状腺亢進症の治療をすることで消滅する。どちらの症状も甲状腺肥大(バセドウ病)のみに見られる眼球突出症と混同してはならない。眼球突出症は自己免疫性による眼窩部の脂肪の炎症によるもので、甲状腺亢進症を併発している場合はダルリンプル症候やグレーフェ症候を悪化させる可能性はある。
甲状腺中毒症は稀で重症な合併症であるが、患者の体調が悪くなったり身体的ストレスが加わった場合に発症することがある。症状として、40度以上の発熱、頻脈、不整脈、嘔吐、下痢、脱水症状があり、症状が悪化すると昏睡状態に陥ったり、死に至ることもある。
甲状腺機能亢進症の診断
診断は過去の履歴や触診と血液検査によって判断される。通常は血中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の量で判断される。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い場合、血中のトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)の量が高くなり、脳下垂体の働きが抑制されている状態で、甲状腺亢進症を発症しているといえる。稀に甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い原因が脳下垂体に起因するものであったり、他の病気に起因する下垂体の抑制であることがあるため、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)の量を確認するのも有効な手法である。甲状腺肥大(バセドウ病)の反甲状腺刺激ホルモン受容体の抗体や甲状腺機能低下症の多くの原因となる慢性甲状腺炎(橋本病)の抗甲状腺ペルオキシターゼ'(TPO)抗体も診断の材料となることもある。また、甲状腺シンチグラフィは甲状腺亢進症と甲状腺炎の原因を掴むのに有効な検査である。下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の量を検査するのと同時に、甲状腺からのトリヨードサイロニン(T3)、Free-T3、サイロキシン(T4)、Free-T4の数値も検査する。甲状腺亢進症の多くは甲状腺に腫瘤を作る為、針による生体組織検査、超音波(エコー)、または他の放射性検査を行いこの腫瘤を癌などの腫瘍と鑑別する。発作性の周期性四肢麻痺のため、救急外来受診の際には、血清カリウム値測定が必須である。カリウム値によっては生命に関わることもある。
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