鉄の栄養について
鉄は古代ギリシアで既に貧血治療に用いられていた形跡があるほど、古くから知られている重要なミネラルです 。鉄は赤血球の血色素 (ヘモグロビン)
と結合して、酸素の運搬や細胞呼吸において重要な役割を担っており、また、金属酵素としても機能しているため、不足すると貧血により運動機能や免疫機能の低下を招くことがあります。特に乳幼児や妊産婦では鉄不足が問題となりますので、十分な摂取を心がけることが大切です。鉄摂取に有効的な食品として、豆類・種実類・藻類・肉類などが挙げられます。
鉄の化学的性質
鉄は元素記号Fe、原子番号26、原子量55.85の灰白色の金属です。地球上にケイ酸塩、酸化物などとして広く分布しています。乾いた空気中では安定していますが、湿気により酸化されて錆
(さび) が生じます。塩酸、硫黄、リンと激しく反応し、希酸に溶けます。水溶液中では2価か3価のいずれかの酸化状態をとります。
鉄の吸収
食品から摂取した鉄は小腸で吸収されますが、その吸収量は1日に1~1.5 mgと極めてわずかで、食物中の鉄の大部分 (10~20 mg) は糞中にそのまま排泄されてしまいます。吸収率は体内の貯蔵鉄量や食事中の鉄の生物学的利用効率などにより、1%未満から50%を上回るまで変化します。食品に含まれる鉄の大部分は非ヘム鉄ですが、肉や魚のミオグロビンやヘモグロビンに由来する鉄はヘム鉄で、非ヘム鉄の2~3倍の吸収率を示します。非ヘム鉄は、ビタミンCにより吸収が促進されますが、加工されていない全粉穀物製品に含まれる「ふすま」やフィチン酸、お茶や野菜類に含まれるポリフェノールなどは非ヘム鉄の吸収を阻害します。
鉄の栄養の働き
成人の体内には男性で約4.0 g、女性では約2.5 gの鉄が存在します。体内の鉄は、酸素運搬機能や酵素機能を果たす「機能鉄」と、鉄の貯蔵や輸送に使用される「貯蔵鉄」に分類されます。機能鉄は体内の鉄の約70%を占め、その大部分がヘモグロビンとして赤血球中に存在し、残りの機能鉄は鉄含有酵素やミオグロビンに存在します。一方、貯蔵鉄はフェリチンやヘモシデリンとして肝臓や脾臓、骨髄、筋肉などに存在します。また、鉄の輸送途中にあたる血清鉄も貯蔵鉄の一部と見なされています。
機能鉄の働き
これは、赤血球のヘモグロビンの材料になっていて、体内の鉄の約60%を占めています。酸素や二酸化炭素を運ぶ働きをしているので、機能鉄と呼ばれています。また、筋肉の中には”ミオグロビン”があり、筋肉に酸素を貯える働きをしています。これも機能鉄の仲間で、その割合は約10%ほどです。筋肉を動かすには、必ずエネルギーを作り出す酸素が必要で、ミオグロビンによって、体をスムーズに動かすことができるのです。
貯蔵鉄の働き
肝臓や骨ずい、脾臓(ひぞう)などにある鉄のことで、割合は20~25%です。名前からも想像できるように、体に貯えられています。偏った食事や、無理なダイエット、生理などによって、機能鉄が不足したときに、血液に溶け出して不足分を補う役割りをしています。いわば、予備の鉄といってもよいでしょう。このため、一時的に鉄が不足しても、すぐに貧血の症状が現れることはありません。不足した状態が長く続いて、貯蔵鉄のストックがかなり少なくなったときに、初めて貧血の症状が現れてきます。つまり、多少の貧血であっても、自覚症状がほとんどないので、気付きにくいのです。ある調査では、日本の女性の約1/3は、この貯蔵鉄が常に不足している、”潜在的鉄欠乏症”の人が多い、という結果がでています。
組織鉄の働き
髪の毛や爪、皮膚などの成分の一部になっている鉄で、割合は全体の5~10%ほどです。貯蔵鉄が、極端に少なくなるとその影響で、髪のうるおいが無くなったり、肌荒れや爪が割れることもあります。
鉄の栄養所要量
不足すると、赤血球をつくる材料がないため鉄欠乏性の貧血になるおそれがあります。貧血になると血液は酸素を十分に運べないので体が酸素不足になり、頭痛がしたり、すぐ疲れたりといった症状がでます。また、心臓はこれを補ってフル回転するので、どうき・息切れをしやすくなります。女性は月経による出血や妊娠・出産によって鉄が失われる分、男性よりたくさん必要です。成人女性の5人に1人が鉄欠乏性貧血であるといわれ、また中学・高校の女子生徒の貧血有病率が増加していることから、食生活を見直すと同時に必要な鉄をきちんと摂取することが重要です。一方、鉄のとり過ぎは通常の食生活ではほとんどありませんが、鉄剤やサプリメントなどから誤って大量摂取した場合は鉄沈着症などの過剰症がみられるため、摂取量などに十分に注意して適切なご利用をこころがけてください。
鉄の所要量は以下の通りです
平成21年の国民健康・栄養調査では、通常の食品から男性は平均7.9 mg、女性は平均7.3 mg摂取しています。また、女性は強化食品・補助食品から平均0.3
mg摂取していますが、特に月経のある女性については推奨量を充たしていません。
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鉄の推奨量 |
成人男性 |
7.0mg |
成人女性 |
6.0mg |
妊婦 |
(初期) +2.0mg
(中期・末期)+15.0mg |
授乳婦 |
+2.5mg |
鉄の詳しい栄養所要量についてはここを参照
我が国における鉄栄養摂取状況
平成21年の国民健康・栄養調査では、通常の食品から男性は平均7.9 mg、女性は平均7.3 mg摂取しています。また、女性は強化食品・補助食品から平均0.3
mg摂取していますが、特に月経のある女性については推奨量を充たしていません。
鉄の栄養による欠乏症と過剰症
鉄分による過剰症は、普通の食生活では起きづらいです。サプリメントなどを誤って摂取した場合に起きる事があります。また、鉄分の欠乏で起きる貧血ですが、その多くが鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血は、生体内でヘモグロビンの合成に不可欠な鉄が欠乏し、ヘモグロビンがの合成が十分に行われないために生する貧血で、日常最も多く見られる貧血です。私達の体は鉄を作り出すことは出来ませんので食物から補給することが必要です。成人男性で毎日約1mgの鉄が失われます。一方、通常摂取された鉄はその約10%が吸収されますので、1日約10mgの鉄を摂取しなければいけません。成人女性の場合には月経による出血で1日平均2mg、さらに妊娠中の女性は1日平均で3mgの鉄が必要となり、それぞれ1日20mg、30mgの鉄を摂取しないと鉄の不足状態となります。鉄の不足分は体に蓄えられている貯蔵鉄(通常約1000mg)から供給されますが、貯蔵鉄が枯渇すると鉄欠乏性貧血が現れてきます。
(参照)貧血について詳しく解説しています。
鉄には、過剰症状と欠乏症があります。
項 目 |
鉄における具体的な症状 |
鉄
過剰症 |
ヘモシデローシス:組織、特に肝臓と脾臓に高度のヘモシデリンの滞留が認められる。 ヘモクロマトーシス:摂取したFeの吸収過剰、Fe結合タンパク質の過飽和、特に肝臓、すい臓、脾臓および、皮膚におけるヘモシデリンの沈着を特徴としている。進行は肝硬変、糖尿病、青銅肌の発症をきたし、末期には心不全を起こすこともある。
(鉄過剰症の詳しい情報) |
鉄
欠乏症 |
貧血症状を呈し、倦怠感、頭痛、食欲不振、重症では上皮が障害されることによる口腔内粘膜損傷に伴う疼痛や口内炎を呈する。
(鉄欠乏症の詳しい情報) |
鉄が多く含まれている食品
鉄の多い食品といえばレバーを思い浮かべることが多いようですが、そのほかにも魚、貝、大豆、緑黄色野菜、海草など、鉄を豊富に含む食品はたくさんあります。 食品中の鉄の種類には、肉・魚・レバーなど動物性食品に含まれるヘム鉄と、野菜・海草・大豆など植物性食品に含まれる非ヘム鉄があります。国民健康・栄養調査結果によると、私たちの口に入る鉄は非ヘム鉄の方が多いようですが、ヘム鉄の方が非ヘム鉄より吸収がよいという点で鉄を摂取したい人に効果的です。また、食事からの摂取が難しい場合ではサプリメントを利用するという手段もあります。一方、非ヘム鉄はビタミンCや動物性たんぱく質といっしょにとると、その吸収効率をアップできることが知られています。つまり、野菜・海草・大豆には、果物・肉・魚を組み合せるとよいということです。
鉄が多く含まれている食品(単位:mg)
豚肉(レバー) |
13.0 |
あおのり(乾) |
74.8 |
鶏肉(レバー) |
9.0 |
ひじき(乾) |
55.0 |
レバーペースト |
7.7 |
きくらげ |
35.2 |
パセリ |
7.5 |
あさりの佃煮 |
18.8 |
はまぐりの佃煮 |
7.2 |
煮干し |
18.0 |
牛肉(センマイ) |
6.8 |
抹茶 |
17.0 |
豆みそ |
6.8 |
干しえび |
15.1 |
たまごの卵黄 |
6.0 |
ピュアココア(粉) |
14.0 |
(鉄が多く含まれている食品リスト)
鉄の吸収促進・吸収阻害する因子
詳しくはここをクリックして参照してください。
鉄に関する情報
鉄に関する詳しい情報
鉄の栄養所要量
鉄の吸収を促進阻害する因子
鉄の過剰症
鉄の欠乏症
鉄について詳しい情報はこちらを参照 |
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